INTERVIEW

友沢こたお
2022

友沢こたおさん

あるとき、「無意識にスライムをかぶってしまった」という友沢こたお。実体験が元になり、艶のある鮮やかなスライムを取り入れた人物像シリーズを描き続けている。かぶったときに感じた“生”の感触、“根源的な何か”を探り続ける友沢の作品は、観る人に強烈な体験を残す。個展では開催と同時に作品が完売するなど、東京藝術大学大学院に籍を置く若手アーティストながら、早々とその才能を開花させた友沢。大盛況のうちに幕を閉じた渋谷PARCO「PARCO MUSEUM TOKYO」での個展「Kotao Tomozawa Solo Exhibition “SPIRALE”」を終えたばかりの彼女にきく、作品に込めた想い、幼少期のこと、才能のこと。

立体作品に挑戦した渋谷PARCOでの個展。

立体作品に挑戦した渋谷PARCOでの個展。
(c)PARCO MUSEUM TOKYO

今までで一番、反響を感じる個展でした。普段SNSはそこまで見ないんですけど、インスタグラムの通知欄がすごいことになっていて、渋谷PARCOという場所はやはり足を運びやすいんだと実感しました。2メートル近くある新作をたくさんお披露目できたし、過去作も含めて展示できたので、ここ5年くらいの集大成として見てもらえる機会になったはずです。今回の展示で、初めて立体作品にも挑戦しました。立体化するにあたって、私の中のどういう感情から作品が生まれたかなど、造形師さんが丁寧に分析してくださって。何度も打ち合わせを重ね、フォルムや色に時間をかけました。スライムをかけるところから一緒に見てもらったのは、母以外で初めて。美しい形にしていただき、すごく感謝しています。

立体作品に挑戦した渋谷PARCOでの個展。
(c)PARCO MUSEUM TOKYO

モチーフになっている赤ちゃんの人形は「ルキちゃん」といって、幼少期から自分のそばにあったものです。幼い頃って、イマジナリーフレンドを作る時期があるじゃないですか。私にとっては「ルキちゃん」がそうでした。他にもう1人「ゴンちゃん」っていう目に見えない子もいて、ちょっと不思議なのですが、3人で喋っている動画が残っていたりします(笑)。人形で遊ばなくなってからは、怖くなって部屋の奥にしまい込んであったんですけど、高校生のときに偶然見つけてしまって。改めて見てみると、めっちゃいい形をしていることに気付いたんです。「これは作品にしなければ」という使命感が生まれました。スライムのシリーズを描き始めてから、ルキちゃんには何度も何度もスライムをかぶせているので、目の部分が壊れかけちゃっている状態です。

はじめてスライムをかぶったときの記憶。

現在の画風になったのは5年ほど前。フランスに住んでいた頃から友人のような関係のベビーシッターさんがいて、彼は日本に来たとき、変なおもちゃとか雑貨を買い溜めしていたんです。いざ帰りの荷物をまとめ始めたら、飛行機で重量オーバーになるからといって、私の家に色々なものを残して帰ってしまって。そこにスライムもあったんですよね。気がついたら、裸になって頭からスライムをかぶっていました。その瞬間、「自分になれた」と感じたんです。外の世界と断絶できたというか。肌にぴたりと触れる生の感触に、とても心が落ち着きました。

はじめてスライムをかぶったときの記憶。

ちょうど当時、やっていることと本当の自分がどんどん乖離していくような感覚を抱いて、かなり混乱していた時期だったんですけど、スライムをかぶったときは、間違いなく「私」だったんです。その感覚をどうしても忘れたくなくて、スライムをかぶった自分を夢中で描きました。絵にしてみたら、思っていた以上に強いものになって。それまでは、予備校のデッサンでも、何を描いてもヌメっとした質感になってしまうことに悩んでいたんです。褒められたくてあれこれ試すんだけど、うまくいかなかったですね。あの日スライムと出会ってからは、雲が晴れたみたいに、すいすい気持ちよく作品を描けるようになりました。自分自身の中にあるぬるぬるを、どう操っていくか。今も新しい作品に取り組むたびに、ライティングや色など、見せ方を探っています。

はじめてスライムをかぶったときの記憶。
(c)PARCO MUSEUM TOKYO

友沢こたおが考える、才能とは。

「あの人はあれができるからすごい」とか、そういうことではなくて、その人らしい仕草とか声とか、持ち合わせている個性が才能じゃないかなって思います。極端に言えば、細胞一つひとつだって才能。まだ形になっていないものだってあるし、表立った結果にならないものだってたくさんある。他の人の評価に左右されて、「私には才能がないんだ」ってネガティブにならなくていいはずなのに。現実は、なかなかそうもいかないですよね。もっと、そのままのあなたでいい、私は私でいいって世の中になればいいなと思います。

友沢こたおが考える、才能とは。

自分との戦いから、夢と現実の狭間へ。

作品を描いている最中は、「もう今日死んじゃうかも」って感じで倒れそうになるまで集中して描き続けます。大変だけど、それくらいが幸せなんですよね。今も200号という2.5メートルほどあるキャンバスの大作に取り組んでいるので、ずっと自分との戦いを続けているような状態です。行き詰まると、暴れん坊の自分が出てきそうになることも。その状態を「ごだお」と呼んでいます。爆発しそうな「ごだお」を抑え込めることができるのは、今のところ母しかいません。母は器がめちゃくちゃ大きな人で、めちゃくちゃパンクなのに、思いやりで溢れている人です。アーティストとしても、人としても、とても尊敬しています。

自分との戦いから、夢と現実の狭間へ。

自分を限界まで追い込んで描き続けると、終えたときの解放感が、最高に気持ちいいんですよね。「よくやった!」と自分を抱きしめたくなります。ご褒美は、サウナ、カラオケ、火鍋。ヨットで過ごす時間が好きで、時間がないときでも朝からヨットに乗って海へ出て、何もせずボーッとします。波に揺られて、キラキラした水面を見ていると、神秘的な眠気が訪れるんです。そのままうたた寝をすると、数時間が一年ぐらいに感じて、夢と現実の狭間にいるみたい。ケータイでマップを開けば海の真ん中にぽつんと点があるだけで、「ああ、自分は巨大な世界の小さい存在なんだ」と気付きます。絵を描く時間は常に壮絶な戦いなので、描かない日は、思い切り意識を遠くに持っていけるよう、メリハリを意識しています。そうやって自分がクリアになることで、また新しい表現に出会える気がします。

友沢こたお

友沢こたお

1999年フランス・ボルドー生まれ。スライム状の物質と有機的なモチーフが絡み合う独特な人物画を描く。シンプルな構成ながら、物質の質感や透け感、柔らかさのリアルな表現が見る者に強い印象を与える。東京藝術大学美術学部絵画学科油画専攻で学び、2019年度久米賞受賞、2021年度上野芸友賞受賞と、早くから注目される。近年の個展に、「Monochrome」(FOAM CONTEMPORARY,東京、2022)「caché」(tagboat、東京、2021)、「Pomme dʼamour」(mograg gallery、東京、2020)、グループ展に「Everything but…」(Tokyo International Gallery、東京、2021)など。現在、東京藝術大学大学院美術研究科在学中。2022年9月に展覧会「Kotao Tomozawa Solo Exhibition “SPIRALE”」をPARCO MUSEUM TOKYOで開催し、初となる作品集『KOTAO』を刊行。

Photo: Kazuki Iwabuchi
Styling: Mie bon Minagawa(the few)
Hair&Make-up: Minako Suzuki

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