INTERVIEW
根本 宗子
プロのモーグル選手を目指すも、不運な怪我によりその夢を断たれた少女は、中学一年生でたまたま「大人計画」の公演を目撃。ひとたび演劇の扉を開けた途端、3日に1本のペースで貪るように舞台を観続けました。その後、19歳で劇団、月刊「根本宗子」を旗揚げ。小劇場での公演を重ね、近年はスズナリ、本多劇場、今年4月にはグローブ座での公演と、猛スピードで演劇界の階段を駆け上がっています。作、演出、出演と、彼女自身が常に全力で挑む舞台は、若い女性たちの間で口コミが広がり、チケットはいつも完売。それでも「自分に才能はない」と言い放つ根本宗子さん。彼女の見つめる先にあるものは一体何なのでしょう。
母の影響で出会った演劇の世界
母親は華やかなショーを観るのが好きな人だったので、幼い頃から「シルク・ドゥ・ソレイユ」やミュージカルなどの公演によく連れて行ってもらっていました。演劇の世界にのめり込むきっかけになったのは、中一のときに母親に連れられて観た「大人計画」の舞台『ニンゲン御破算』(2003年)です。とにかく面白くて衝撃を受けて、出演していた役者さんを調べてみたら舞台で活躍されている方ばかりだったんです。それを機に、岩松了さんや「大人計画」、「劇団 新感線」、「ナイロン100℃」などの舞台を夢中で観に行くようになりました。学校の自分のロッカーには、松尾スズキさん、宮藤官九郎さん、阿部サダヲさん、星野源さんの写真を切り抜いて貼っていたし、上履きの側面にマジックで好きなアイドルとかミュージシャンの名前を書くのが流行ったときも、私は4人の名前を書いていました。当時周りで演劇にハマっている子なんていなかったから、かなり不思議がられていたと思います(笑)。
中三から高一にかけては、1年で120本以上の演劇を観ていました。観に行くたびに思ったこと、感じたことをノートにメモしていて、今でもそのメモは、演出を考えるときに役立っています。パルコ劇場にもたくさん行きましたね。10年以上前ですけど、パルコ劇場で観た『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』(2005年)は衝撃的でした。三谷幸喜さんの『PARCO歌舞伎 決闘!高田馬場』(2006年)も、出演者が歌いながらゴルフをする『ゴルフ・ザ・ミュージカル』(2006年)も斬新だったからよく覚えています。三浦大輔さんの『裏切りの街』(2010年)は、終演後に銀杏BOYZの峯田和伸さんが主題歌を弾き語りする日に行ったんですけど、半裸の状態で歌う峯田さんの迫力がすご過ぎて、お芝居の内容が全部吹っ飛んでしまいました。素晴らしすぎて、自分が演出家だったらプレッシャーだと思いました(笑)。
根本宗子がつくる舞台
私が新しく脚本を書くとき、まず決めるのはラストシーンから。自分が客席で一番観たいと感じるシーンを思い浮かべます。物語よりも先に、絵を思いつくことが多いですね。普通は、脚本を書いていくうちに「セットのここにはけ口があった方がいい」「こういう仕掛けがほしい」とか、いろいろアイディアが生まれていくものですけど、私は全く話が決まってない段階でも、とりあえず美術さんと会って話します。「スカパー!」で放送されていた過去の公演の映像を見せたり、学生時代のメモを辿りながら画像を探して、イメージを伝えるんです。セット先行型なのは、もしかしたら、母と一緒に観た派手なショーや、大きなコンサート会場で観てきたセットのイメージが無意識に影響しているのかもしれません。
2016年秋、月刊「根本宗子」として初めて本多劇場で『夢と希望の先』をやることが決まったときも、学生の頃の演劇メモを見返しました。10代の自分が、本多劇場の客席から観て何を感じていたんだろうって。割と高さがある舞台なので、空間を目一杯に使わないとどこか物足りなくて、自分の公演では、下に2部屋、上に1部屋の3分割でセットを組もうと思いました。スペースを区切ることで、役者たちが過去にやってきた劇場と同じ感覚で舞台に立てる。だけど今回の『皆、シンデレラがやりたい。』は役者さんたちが大きな舞台に立ち慣れているメンバーということもあって、同じ本多劇場だけど、1シチュエーションの構成にしました。これまで私や、劇団で一緒にやってきた女子メンバーがギャーギャー大声で言い放っていたような台詞も、ベテランの女優さんたちだと全然違う印象になるんですよね。脚本、演出、出演、すべて自分が前に出て、全力でこなしてきたスタイルが、この公演から変わっていきます。その場にいるお客さん全員の気持ちを、私が全力で「せーの!行くよ」って連れて行く気持ちで舞台に立っていたけど、これからは、主演の役者さんたちにそれを任せることにしました。それはつまり、脚本の力が問われるってことなんですよね。4月にはさらに大きいグローブ座が待っているので、もっともっと、物語そのものでお客さんを楽しませる力をつけなければなりません。
負けたくない相手はいつだって自分
もともと幼い頃から、人と争うとか、ライバルと戦うっていう意識がないんです。だけど、いつだって最新作が一番面白くないと嫌。“自分に対して負けず嫌い”な部分はすごくあります。それは、小学生のときに打ち込んできたモーグルで培われてきたのかもしれません。モーグルは自分一人で黙々と練習する競技なので、常に自分との戦いでした。滑りに対して点数がきちんと出るので、高得点を目指して練習するっていう明確な目標があったんですけど、演劇は正解がない。お客さんの入りや拍手の大きさとかで、その日の出来を判断するしかなくて。なので、いつまで経っても満足することはないですね。お芝居をおもしろかったって言われるのは素直に嬉しいんですけど、褒められるとどこかで「本当かな?」と不安になってしまって、素直に喜べない。休みの日も人の演劇を観に出かけますし、常に演劇のことを考えてます。本来は隙あらばダラダラしたいし働きたくない性格なので、そうならないようにしています。たぶん、お金持ちと結婚したら私は何もしなくなるんじゃないかな。
自分が人よりも秀でているとか、特別な才能があると思ったことは一度もありません。だけど「人と同じことはしないようにしよう」と常に考えていますし、そのための準備には時間をかけます。そういう面でとても尊敬しているのは宮藤官九郎さん。宮藤さんは草野球チームの物語だったら、ストレートに草野球をする人間模様を描くんじゃなくて、草野球メンバーが通う飲み屋で起こるドラマを描くじゃないですか。憧れる部分は他にもあって、誰にでも腰が低くて、一見普通の男の人なのに、作品はものすごいところ。この世界は特に、見た目や物腰が普通な人は小馬鹿にされがち。私はまだ宮藤さんみたいに自然体ではいられなくて、初めて人に会うとき、わざと変人ぶることがあります。ちょっと奇抜な服を着て、目を合わさずに下を向いて話す。そうすると、不思議と「芸術家認定」されて、やりたいことをぶつけやすくなるんですよね。本当は、いつも自然な自分でいられるようになりたいです。
根本宗子がするべきこと
お客さんに感じて欲しいことは演劇を始めた頃からあまり変わっていなくて、私の舞台を観たあとに、少し気分が変わって帰ってほしいなって思います。友達と一緒に観に行って、帰りにご飯を食べながら、舞台の話で盛り上がってくれたらすごく嬉しいですね。ネットでもリアルな会話でも、色んな人の話題に上がってくれることが嬉しいです。昔って、ドラマとか漫画とか、もっと皆が同じものを同時に観ていて、次の日にクラスで話が盛り上がったじゃないですか。だけど今は、TVでもネットでも、観たいときに観たいものを選んで観る時代だから、あの頃のように共通の話題で盛り上がれることが少ない。演劇はその日、その場所でしか観られないものだから、例えば、私の舞台を観に来た人同士が、初対面で盛り上がって仲良くなれるようになったら、とても幸せですね。若い子たちには、演劇ってどこか「難しい、つまらない、寝ちゃう」みたいなイメージがあると思うけれど、私の舞台では寝かせないし、飽きさせない。間が嫌いなんですよね。間があるなら喋りたいと思ってしまう。先日、岩松(了)さんが「根本さん、お客さんに『このシーン退屈だな』って思わせることも、ときには大事だよ。でもそれは30代、40代になったら自然と描きたくなるものだから、君は今のスタイルのままでいい」って言ってくださって、すごくありがたかったです。硬派な演劇はもちろん好きだし、評価につながるのはわかっているんですけど、それをやっている人は他にたくさんいるので、同世代のお客さんたちにもっと演劇を届けるためには、そうじゃない新しいものを作っていくことが私の使命だと思っています。
根本 宗子/ Shuko Nemoto
ねもと・しゅうこ。劇作家、演出家、俳優。1989年東京都生まれ。19歳で劇団、月刊「根本宗子」を旗揚げ。以降、劇団公演ではすべての作品の作、演出を手掛け、女優としても外部作品にも多数出演。最近では、WEBドラマ『女子の事件は大抵、トイレで起こるのだ。』、ショートムービー『Heavy Shabby Girl』の脚本を手がけるなど、演劇以外でも精力的に活動中。2015年上演の『夏果て幸せの果て』にて、第60回岸田國士戯曲賞最終候補作品に選出。昨年の『夢と希望の先』に続き、2017年2月には本多劇場で最新作『皆、シンデレラがやりたい。』、4月30日〜東京グローブ座でKAT-TUNの上田竜也を主演に迎える『新世界ロマンスオーケストラ』の上演が控えている。
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